マントルに沈み込んだ水


 沈み込み帯のマントルウエッジ (沈み込むプレートと沈み込まれるプレートに挟まれた部分) には、沈み込んだプレートから供給された水がマントルカンラン岩の融点を下げ、マグマを生成しています。これが日本列島の火山のもととなっています。
 この水がもともとどのような、どこに存在していた水か、またどのくらいの量がマントルへ沈み込んでいるのかを明らかにするため、金沢大学の水上知行博士と、名古屋大学の S.R. Wallis 博士との共同研究として、過去に沈み込み帯のマントルウエッジであった、四国中央部三波川変成帯の東赤石カンラン岩について、希ガスとハロゲン元素の特徴を調べました。ハロゲン元素はイギリス・マンチェスター大学の R. Burgess 博士と C.J. Ballentine 教授のところに留学した時に分析しました。
 東赤石カンラン岩には、100km の深さまで沈み込んだ水の痕跡が、蛇紋石の包有物として残されています(Mizukami et al., 2004)。希ガス抽出法を工夫して、この包有物に含まれる希ガス(とハロゲン)を選択的に分析しました。その結果、この水の起源は、海の底の堆積物に含まれる間隙水であることが明らかになりました。間隙水は沈み込むプレート中の水の総量の60%を占めますが、マントルまでは沈み込まないと従来考えられており、この発見はマントルに沈み込む水の総量と輸送プロセスを見直す大きなきっかけとなりそうです。 

Sumino et al. (2010) Earth and Planetary Science Letters, 294, 163-172.

蛇紋石包有物 東赤石カンラン中のカンラン石に含まれる、蛇紋石包有物。
深さ 100km のマントルウエッジでカンラン岩に取り込まれた、水を主成分とする流体包有物の痕跡と考えられています。

希ガス元素比

蛇紋石包有物中の希ガスの元素比。
青丸(蛇紋石包有物)は、海水(間隙水)と非常に近い組成を持っており、堆積物(黒い三角)や海洋地殻(黒い四角)とは異なっています。

ハロゲン元素比

ハロゲン元素比。
蛇紋石包有物中のハロゲン(青丸)は、深海底堆積物(Sediments)やそれに含まれる間隙水(灰色)と同様に、ヨウ素 (I) に非常に富んでいるのが特徴です。希ガス元素比と組み合わせて考えると、蛇紋石包有物になった水の起源は、間隙水であることが分かります。