電荷を持った粒子(原子イオン、分子イオン)の電磁場中での運動が、質量数と電荷の比によって異なることを利用して、原子(同位体)や分子を質量を区別して検出する分析手法です。質量分析を行う装置(質量分析計)には、質量/電荷比の区別のやり方によって、以下のようなものがあります。
磁場型質量分析計
イオンの運動方向が磁場により曲げられるとき、その曲がり具合がイオンの質量/電荷比によって異なることを利用します。
四重極質量分析計
四本の平行な棒状の電極(四重極)の間の振動する電場中を、特定の質量/電荷比のイオンのみが通り抜けることを利用します。
飛行時間型質量分析計
同じ電場で加速されたイオンの速度が質量の1/2乗に比例して異なることを利用します。
希ガス同位体を用いた地球宇宙化学には、重要な情報源である同位体比を精度良く測定することと、103個程度の同位体検出も可能な極めて高感度の分析を行うことが要求されます。本研究室では独自の改良を施した希ガス質量分析計(うち1基は完全自作)と、希ガス抽出系、希ガス精製系をそれぞれ備えた3基の希ガス質量分析システムを有し、目的に応じて使い分けています。
名称 | MS-IV | RI-MS | He-MS |
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外観 | ![]() |
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用途 | 地球物質の全希ガス分析 | 中性子照射試料のハロゲン分析 40Ar-39ArおよびI-Xe年代測定 | He同位体分析 |
試料 | 岩石・鉱物、ガス、水 | 岩石・鉱物 | ガス、水 |
特徴 | 高感度、低ブランク He用ダブルコレクター |
低ブランク | 小型、He用ダブルコレクター |
希ガス抽出 | 加熱法、破砕法、レーザー テプラーポンプ |
加熱法、破砕法 | 半透膜気液分離モジュール |
40Ar-39ArおよびI-Xe年代測定法では、原子炉を使って試料に中性子を当てて、核反応により目的元素(カリウムやヨウ素)を希ガス同位体に変換します。中性子を照射したした試料は放射能を持つため、装置は放射線管理区域内に設置されています。もともと東京大学地震研究所の兼岡一郎先生の研究室で使われていたものですが、兼岡先生の退官に伴い譲り受け、改良を施して様々な試料の40Ar-39ArおよびI-Xe年代測定に使えるようにしました。とくにI-Xe年代測定法は、隕石に記録されている太陽系形成初期のイベントに関して時間軸を導入することができ、世界でも数研究室でしか行われていませんでしたが、2004年に国内で初めて実用化しました (Ebisawa et al., 2004)。
I-Xe年代測定についての詳細はこちら。
ヘリウム同位体比(3He/4He比)は地球の火山岩や火山ガスなどの起源について重要な情報を与えます。これを高感度かつ精密に測定するため、本研究室ではHe用に二つの検出器を備えたダブルコレクター質量分析計を用いています。VG5400のスペシャルモデルの質量分析計に、独自の改良・調整を施して3He/4He比の高感度・高精度同位体分析を実現しています。詳細はこちら。
また3He/4He比の連続測定を視野に入れた、小型のHe専用希ガス質量分析計(He-MS)の開発も行いました。大阪大学大学院理学研究科物理学専攻・質量分析グループにイオン光学の設計をお願いし、その設計をもとにして独自に設計しました。制御用の電源回路もほとんど自作です(Bajo et al., 2012)。
試料が火山ガスや温泉ガスなどのガスとして得られる場合は、そのまま精製ラインへ導入することができますが、岩石など固体物質の場合は試料から希ガスを抽出する必要があります。試料に含まれる希ガスは結晶格子、気体・液体包有物、結晶粒界などの異なるサイトに含まれ、得られる情報もそれぞれ異なります。従ってそれぞれのサイトから希ガスを選択的に抽出することが重要ですが、本研究室では以下の抽出法を目的に応じて使い分けています。