研究紹介

以下もご覧ください。

先端研の研究室紹介ページ

2024年度版研究室紹介スライド

大学院生向け研究テーマ(例)


地球各部の希ガス

 希ガスは地球内部における存在量が少なく、かつ大気(海水)・地殻・マントルでそれぞれ異なる同位体組成を示すため、これらの物質の混合による元素比や同位体比の変動が、他の元素に比べて大きいという特徴があります。また化学的に不活性なため、地球深部から地表に到るまでの様々な化学反応によって、その同位体比がほとんど変化しません。これらのことから希ガス同位体は、地球深部まで含めた大規模な物質移動の敏感なトレーサーとして用いることができます。右の図に、地球の各部分における希ガス(HeとAr)の同位体比を示します。またK-Ar法に代表されるように、放射壊変起源の希ガス同位体を測定することによって、年代測定を行なうことも可能です。

 マントルの希ガスは火山活動に伴って地球表層(大気・海洋・地殻)に移動する一方で、表層の希ガスの一部はプレートの沈み込みに伴ってマントルに運ばれ、循環しています。本研究室では、火山ガス・温泉ガスといったガス試料や、火山岩・マントル捕獲岩(マグマによって地表にもたらされたマントル物質)といった岩石試料に含まれる希ガスを分析します。そして地球内部の希ガス同位体比の不均質を利用して、マントルあるいは地殻由来の希ガスを検出し、火山活動の起源や盛衰と、地球内部における揮発性元素の循環を調べています。

地球上のHe、Ar同位体比

研究テーマ

 現在進行中、あるいは計画しているテーマとしては以下のものがあります(詳しくはそれぞれのページへ)。
 国内・国外の他機関の研究者の方々との共同研究が多いのが特徴です。

 卒業生の研究テーマはこちら

  1. ダイヤモンドの起源
     ダイヤモンドは地球のマントルの約 150 kmより深いところでできたので、マントル深部の希ガスを内部に取り込んでいると考えられます。勿体ないですが、ダイヤモンドを真空中で砕いたりグラファイト化したりして、出てくる希ガスの特徴を調べています。
     2010年度に修士を卒業した田子修也さんが、理学系研究科・地殻化学実験施設の鍵教授の指導のもと、顕微分光分析でシベリア・ウダチナヤ産のダイヤモンド中の炭酸塩や水などの分布を調べ、その結果を踏まえた希ガス分析を進めてくれました。同じ産地のキンバーライト(下記)との関係で、たいへん興味深い結果が得られましたので、現在投稿論文を準備中です。
     またこれとは全く異なる起源の、カザフスタン・コクチェタフ超高圧変成帯の変成岩中にみられるマイクロダイヤモンドから、深いマントルに起源を持つ希ガスを見出しました。その成果は Earth and Planetary Science Letters に掲載されています。
     さらに起源が分かっていなかった、シベリアの漂砂鉱床で採取されたダイヤモンドについては、2012年度に修士を卒業した豊島大地さんが、マントルに沈み込んだ地殻・堆積物中で形成した可能性が高いことを、希ガス同位体比をもとに示しました。

  2. キンバーライトマグマの起源
     ダイヤモンドを地表まで運んだキンバーライトマグマが、ダイヤモンドと同じ深さから来たのか、それとももっと深いマントル起源なのか、希ガスから明らかにしようとしています。
     2011年度に修士を卒業した北村文彦さんが、2006年に角野が Geophysical Research Letters に発表した仕事をもとに発展させて、キンバーライトマグマの上昇過程で希ガス同位体比がどう変化するかを明らかにしました。

  3. マントルに沈み込んだ水
     日本列島などのプレート沈み込み帯では、地表の水がマントルに沈み込んでいると考えられています。沈み込むプレートのどの部分に含まれている水が、どの程度の量マントルに沈み込み、最終的にマントル対流に巻き込まれているかを、希ガスとハロゲンを手がかりに調べています。
     最新の成果は Earth and Planetary Science Letters に掲載されています。
     マントルに沈み込んだ水と最近の研究についての総説は 地球化学 に掲載されています。

  4. 極微量ハロゲン地球化学の開拓
     マントルに沈み込んだハロゲンの起源を明らかにするには、マントルを構成する岩石(カンラン岩)を分析しなければなりませんが、含まれるハロゲンが極めて少ないため、従来の手法では正しく分析できません。そのため、中性子照射による核変換を応用した、極微量ハロゲンの分析手法を実用化しようとしています。
     理学系研究科化学専攻(地殻化学実験施設・鍵研究室)博士2年の小林真大さんが、自身の卒業研究で大幅に改良した分析装置を使って、マントルカンラン岩の分析を進めてくれています。
     紹介記事が東京大学アイソトープ総合センターニュースに掲載されました。

  5. 火口湖からの連続的火山ガス放出:ニオス湖とマヌーン湖
     世界でもまれな、湖底に炭酸ガスが継続的にたまり続けている湖の、ガスの起源と蓄積のプロセスを希ガスから解明しようとしています。
     松尾貴之さんが卒業研究で、2001年に人工的な脱ガスが始められて以後、火山ガスの蓄積の様子が変化してきている様子を希ガス同位体比の深度プロファイルをもとに調べました。

  6. 南米パタゴニアに産するアルカリ玄武岩の起源
     東京大学地震研究所の折橋裕二博士との共同研究で、南米大陸の沈み込み帯の背弧である、パタゴニア地域に大規模に噴出しているアルカリ玄武岩の起源を調べています。希ガス同位体分析と K-Ar 年代測定を担当しています。
     2012年から一年間、ブラジルからの留学生 Tiago Jalowitzki さんが、この地域のマントル捕獲岩の希ガス分析のために滞在しました。

  7. ヘリウム同位体比の超精密絶対測定
     高エネルギー加速器研究機構の三島賢二博士や物理学専攻・素粒子物理国際研究センターの山下了准教授ほか、中性子光学・基礎物理(Neutron Optics and Physics: NOP)グループの方々との共同研究です。彼らが大強度陽子加速器(J-PARC)で実施している、中性子寿命測定に用いるヘリウムガスの同位体比を精密に測定することで、標準ビッグバン宇宙論の重要なパラメータの決定に貢献しようとしています。

  8. 火山体周辺のヘリウム同位体比の分布
     九州大学の大野正夫博士、相澤広記博士との共同研究で、火山周辺の温泉や湧水のヘリウム同位体比の分布を調べています。マグマから放出されるヘリウムの影響がどこまで及んでいるのか、またマグマの活動度の指標になり得るのかを調べるのが目的です。これまでに、伊豆半島と富士山周辺の温泉をほぼ全てサンプリングしました。温泉宿に泊まって骨休めできるのがメリットです(※もちろん日中はハードに働いていますし、安く泊まれるところに限ります)。
     またカナリア諸島をはじめとする、世界各地の火山の火山ガスや温泉水、井戸水の希ガス同位体組成と火山活動との関係を、スペイン・カナリア諸島火山研究所 El Instituto Volcanológico de Canarias (Involcan) との国際共同研究として、継続して調べています。
     伊豆半島のヘリウム同位体比の分布に関する論文が、Journal of Volcanology and Geothermal Research に掲載されました。
     2011年6月から続いているスペイン・カナリア諸島イエロ島の噴火活動に応答した、地下水のヘリウム同位体比の変化を報告した論文が、Geology に受理されました。

  9. マントル−ヘリウム・フラックス計画:ヘリウム同位体比連続測定の試み
     ヘリウム同位体比は地下のマグマの活動や断層運動の敏感なトレーサーとなるため、その連続測定は火山活動や地震に繋がる地下の歪みをモニターする上で有効と期待されます。五十嵐丈二博士(2003年に東北大学に異動、2006年3月逝去)が提唱したマントル−ヘリウム・フラックス(メフィア)計画の実現に向けた、連続測定のための小型のHe専用希ガス質量分析計(He-MS)を開発しました。
     卒業生の馬上謙一さん(現北海道大学助教)が修士課程で精力的に開発を進めた成果が、Mass Spectrometry 誌に掲載されています。


フィールドワーク

 研究に用いる火山岩・火山ガスや温泉ガスなどの試料は、基本的に現地に出向いて自分で採取します。研究費を使って旅行できるというメリットがありますが、 もちろん仕事はきちんとしなければなりません。

 地球上の火山が分布する地域は、海洋プレートが生産される中央海嶺、マントル深部からの上昇流によるホットスポット、そしてプレート沈み込み帯の三つに分類されます。 日本列島も沈み込み帯に位置し、世界有数の火山国ですので、研究の対象となる火山岩・火山ガスは至る所で採取することができます。

 下の地図に、研究に用いた試料の産地を示します。※地図上の地名をクリックすると、サンプリング風景の写真を見ることができます。

韓国 エーゲ火山弧
済州島
カメルーン
パタゴニア
(赤い●印がホットスポットと沈み込み帯の火山、黒い線は中央海嶺を含めたプレート境界です。)
隠岐島後
北九州
伊豆諸島
雲仙
硫黄島
(赤い三角印が火山です。)

研究紹介のページに戻る

このページに関するご意見・ご質問は,角野浩史まで

トップページに戻る